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【PassingMoon】 xxx NARUTOside
  2025/03/10 [13:06] (Mon)
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  2008/09/30 [10:20] (Tue)
 ……なあ、おまえ、どこにいるんだよ。
 気がついたら、自分は暗い森の中を一人で歩いていた。
 へっ、と間抜けな声が漏れたが、その声さえ真っ暗な森の中に吸い込まれてしまう。
(任務中だったっけ?)
 首を捻るがそんな記憶はない――というよりも、ナルトは先日サスケと2年半ぶりの再会をして、大打撃を受けて帰ってきたばかりなのだ。
 そこまでしっかりはっきりした記憶が残っているというのに、今のこの状態は何だろう。どこへ行くつもりだったのか、どこへ行けばいいのか。わからないままとりあえずと歩を進めているうちに、方向すらわからなくなった。
(うっわー……オレ、何も持ってねぇでやんの)
 方位磁針を取り出そうとポケットに手を入れれば何もなく、あれっと思って視線を下ろせば忍具もポーチも身につけていなかった。こんな状態で夜中に外に出るなんて、一体自分は何を考えていたのか。
 まさか夢遊病とか、と唸って足もとに落としていた視線を上げる。

 ――と。急に拓けた視界に、ナルトは瞬きを繰り返した。

 ざあ、と葉が風で揺れる音が聞こえる。いつの間にか、ナルトは森を背にして立っていた。
 目の前に広がるのは、一面の、草の海原。

 月に照らされたその景色に数秒見惚れて――直後、はっと目を瞠った。
 少し先の岩場の向こうで、青白い光がまるでプラズマのように明滅している。

「……っ、」

 何を考えるまでもなく走り出していた。
 目の前で散る青白い光が何か、自分は知っている。
 チチチと鳥の囀りのように音を鳴らすそれが、ああして空間を支配する閃きが誰のものか。
 だって、ついこの間、見たばかりだ。
 あの信じられないほどの成長スピードを見て、知って、どん底へと突き落とされたばかりなのだ。
 でも。

「サスケ!」

 岩場に飛び乗り衝動のまま叫ぶと、視線の先の彼が静かに振り向いた。
 身体に纏わりつかせた青白い光が一度大きく膨らんで、すうっと消える。視線は合った筈なのに、絶対にナルトの存在を認識しているはずなのに、彼は何事もなかったかのように視線を戻し、持っていた刀を一振りすると鞘におさめた。

(……あ、そっか)

 急に現状の意味を悟る。

(そっか、これ、夢なんだ)

 何か都合いいよなー、と思ったのだ。一人でサスケのいるところに出くわすなんて。
 夢見るほど焦がれていたのか?そう考えたら何だか悔しいような気になってしまうのだけれど。
「サスケ」
 呼ぶと、ちらりとだけ視線を寄越し、サスケは僅かに眉をひそめた……ようだった。あまりにも微かな変化なので確信はなかったが。逃げる素振りもなければ敵意を向ける様子もない。……ナルトの願望が、そうさせているのかもしれない。
「今日は刀向けてこないんだな」
 つい思ったことを口にすると、サスケの眦が吊り上がって右手が柄に伸びた。うわっ、と慌ててちょっと待てと叫んでみれば、彼は至極あっさりとその手を下ろす。それだけじゃなく、そのまま近くの岩にサスケは座ってしまった。まるで、ナルトなど目に入っていないかのように。
(えーと)
 ……なんだか、拍子抜けする。無関心を装われているようでムカつくけれど、こうして彼の傍にいられるのは正直嬉しかった。
(あー、嬉しいとか、どうなのオレ)
 ガリガリと頭を掻いて、ちょっと迷ったあとサスケの前にしゃがみこむ。自然と俯いている彼を見上げる形になった。
「サスケ」
「……」
 答えはない。どうせ夢だしと自らに言い聞かせて、ナルトは彼に話しかけた。
「なんか、変な感じするってばよ。オレの知ってるサスケは、2年前のあのままだったからさ……。お前、すげぇでかくなってたし。オレも同じくらいでかくなってるんだろうけど」
「……」
 サスケは沈黙したままだ。ナルトの方を見ることもせず、ただそこに存在している。
「あの時はただ必死だったからさ……オレ、きっと、お前の顔もう一回見たかったんだなって。こんな夢、見るくらいにはさ」
「……」
 やはり黙ったまま、サスケが僅かに視線を上げた。月の光を浴びた双眸が少しだけ青白く染まる。
 その瞳が思ったよりも穏やかにナルトを映したことに気を良くして、ナルトは更に言葉を続けた。
「お前が里出てから、いろいろあったんだ」
 逸らされることのない視線。
 そんな些細なことが嬉しいなんて本当にムカつくけれど、事実そうなので困ってしまう。
 本当に、自分はサスケに会いたかったのだ。
 馬鹿みたいに毎日毎日サスケのことばかりを考えていた。離れてしまった彼が何をしているのか、何をされているのか、どんな境遇に身を置いているのか、考えるだけで心の奥の何かが震えた。
 早く早くと気が急いていてもたってもいられなかった。どんな修行だって、サスケのことを考えれば耐えられたし先に進めた。
「サクラちゃんがさあ、五代目火影の弟子になってるんだってばよ。あの三忍の綱手ばーちゃん。名前は知ってっだろ?お前も。それでさ、俺は相変わらずエロ仙人……自来也のじっちゃんと一緒にずっと修行しててさ」
 サスケは何も言わない。身じろぎもしない。
 顔を見られるのは嬉しい、話を聞いてくれているのも嬉しい。けれど、こうして大人しくしているサスケは、夢の中の出来事だと突きつけられているようで……少し、悲しい。
「んで、サスケは大蛇丸のとこだろ?カカシ班三人とも、伝説の三忍の下で修行してんだ……オレ、お前が大蛇丸のとこになんか行ったのは絶対ぇ許せねえけど、」
 許せないけど、凄いことだと思った。
 言葉を飲み込んで、ナルトは少しだけ笑った。凄いことだからって認められるわけじゃない。許せるわけじゃない。けれど、こんなことってあるのかなあ、偶然なのかなあと考えることはある。
「……サスケ」
 呼びかけると、何故かサスケの瞼は下ろされ彼の瞳はその奥に隠れてしまった。
 さわさわと吹き抜けていく風が、以前より伸びた彼の髪を揺らしていく。
「なあ、サスケ。何か喋ってくれってば……」
 少しだけ不安になる。
 サスケが何も言わないのはナルトの中でサスケがどんな言葉を自分に吐くか想像できないからなのか。それとも、ただ単に、夢だからなのか。
 沈黙が落ちる。……目の前の瞼も、閉じられたまま。
 サスケは相変わらず陰影の目立つキレイな顔をしていた。スリーマンセルを組んでいた頃、夕闇の中で彼の顔に落ちた睫の影に一度だけ見惚れたことがあった。月の光に照らされて陰影を作る彼の顔は、今も昔も変わらない。
 変わってしまったのは、彼と自分の、距離。関係。
 何も情報がつかめないことが悔しかった。いつだって気持ちはサスケに向いているのに。それこそ四六時中、こいつのことを考えているというのに。
 サスケ、ともう一度名を口にすれば、今まで抑えてきた遣る瀬無さが喉元までこみ上げてくる。
「お前……、お前さあ、何で里抜けなんてしたんだよ……!」
 だらんと下げられたままだったサスケの手首を掴む。持ち上がった瞼の奥から、剣呑な光を帯びた黒い瞳がナルトを捉えた。
 何で、なんて、今さら問うことではないけれど。
 別れ際のあの言葉がすべてなんだろう。でもどうして。自分を捨てて、一族のためにその命を捧げるようなことをしなくたっていいのに。
「オレは絶対ぇお前を追う!そんでぶっ飛ばして連れ戻す!お前が今より強くなるならオレはそれを越すくらい強くなってみせる!」
「……」
「オレはお前のことも火影になる夢も諦めねえからな!覚悟しとけよ!……おいサスケ聞いてっか!?」
「……」
 あまりの無反応っぷりにはあーと大きく息を吐き出して、がくんと首を倒すとナルトは項垂れた。
 反応がないのはこの際しょうがないとして、何で自分はこんなに必死に語りかけているのだろう。
「……ってオレ……夢ん中でンなこと言ってもしょうがねーってばよ……。あー、でも、決意っていう意味ではいっかぁ……。うん、」
 目の前の存在は、サスケであってサスケではない。彼の形をした、ナルトの作り上げた偶像だ。
 わかって、いるのに。
「……」
 何だかおかしくなってきてしまった。一人で叫んで一人で怒って。
(でも)
 もう夢でもいい、彼は今、逃げずにここにいてくれている。
 届けることができなかった気持ちをこうして吐露できただけでも。
(夢だから当然かぁ……)
 自分がそう望んでいるからなのだろう。サスケに聞いて欲しいと。あんな風に力ずくじゃなくて、自分の意志でナルトの話を聞いてくれたらどんなにいいだろうと。
 夢なら、叶うのだろうか。
 ナルトの望みが。
 何もかも。
「……戻ってこいよ、サスケ。木の葉に。……なぁ」
 嘘でもいい。戻ると言ってくれたら、希望の欠片くらいにはなるかもしれない。
「なあ。……聞いてる?……サ、ス、ケ、さーん?」
 おちゃらけて顔の前で手を振れば、彼の柳眉が少しだけ不機嫌そうに動いた。そんなとこばかり本物に似なくていいのに。
「……。サスケェ……夢なんだからさあ……なんつーか、こう……ちょいっと譲歩して、オレの欲しい言葉くれてもいいんじゃね?」
「……」
 無言のまま少しだけ瞳が細められる。だが本当にそれだけだ。
 これはアレか、自分の中のサスケが定まってないからなのか。それにしたって、と少しだけ肩を落とす。
「はあー。オレの中のサスケって何でこんな愛想ねぇの……おっかしいなあ、地味に凹むってばよ……」
「……」
「……」
 ナルトが黙ってしまうと、沈黙は深くなった。空間はあっという間に夜の静寂に埋め尽くされてしまう。……闇に呑まれる。
 何か言わなくてはこのまま覚めてしまいそうな雰囲気だと思ったから、ナルトは言葉を探して視線を彷徨わせた。何でもいい、彼に言うことはなかっただろうか。
 彼が何も教えてくれないのはきっとナルト自身の彼に関する情報が少ないからだ。ナルトの中にあるうちはサスケの情報はは12歳の時のものしかない。最近のものはあの味とでの再会時のみで、あんなの、彼のほんの人欠片の情報に過ぎなかった。
 ふっ、と空気が動く気配。
 ずっと大人しかった彼がどこかに行ってしまうのかと慌てて顔を上げると、ずっと閉じられたままだった唇が動いた。
「……、ナルト」
「っ!?うわ、びっくりしたっ。んだよ、喋れんじゃんっ」
 本気でびっくりしてぞわっと肌が粟立った。
 なんだ、喋った。声、持ってた。
 ナルトの中にある、成長したサスケの声。
「戻ると言ったら、お前はそれで満足するのか」
 彼が喋ったことで浮かれかけていたナルトの耳に、先程よりもはっきりした声が届く。え?と彼を見返すと、抑揚のない声が、またサスケの唇からこぼれた。
「夢でオレが戻ると言って、それで?」
「……そりゃあ……」
 サスケは無表情のままだ。闇に融けそうな烏珠がナルトを見据えて――ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「現実のオレは戻らない。お前と会うこともない。会いたいとも思わないし、木の葉に戻るなんてこの先何度分岐があろうと選択肢の中にない」
「……サスケ」
「オレがここで何を言っても、意味なんてない」
「………サスケ」
「必要ねえだろう。今のお前に、オレは」
「……ッサスケ!」
 思わず叫んで立ち上がると、ナルトはサスケの肩を掴んだ。
「馬鹿じゃねぇの、お前っ……必要、ないなんてさあっ……」
 何故そう言いきれる。どうして。
「――引き返せ、ナルト」
「どこへだよ」
「オレのことはもう放って、一端の忍としてやってけっつってんだ」
「っ、あのなあ!」
 ぶちん、と頭の中の何かがキレた。
 と同時に込み上げて来た感情が渦を巻いて止まらなくなる。
「わかんねえっつーのならもう一度言う!オレはお前を追う!絶対ぇ、連れ戻す!必要ねえっつーのなら追うかよ!オレは今でもお前のこと仲間だと思ってんだ!」
「……オレは、思ってねえ」
「お前の意見なんて知るかってぇの、オレが思ってんだ黙っとけ!オレはお前と一緒にいたいんだ!オレのこと殺すってんならやってみろってばよ、オレは生きる!お前も死なせねえ!見てろよ、すぐに追いついてやるからな!お前よりもっと強くなって、追いかけてぶっ飛ばして目を覚まさせて、木の葉に連れ戻してやる。そんで、オレがずっとお前を――」
 ……お前を?
 そこまで言って、あれ、とナルトは目を見開いて動きを止めた。
 何を、言おうとした?
「……」
 気まずい沈黙が落ちた。
 自分の言おうとした言葉がわからなくなってぽかんと口を開けたまま固まってしまったナルトに、サスケの眉根が先程よりきつく寄る。
 そしてまた、しばしの静寂。

 肩を掴んでいたナルトの手を払いのけ、静寂を振り払うかのように。はっ、とサスケが息を吐いた。

「……ガキの駄々かよ」
「うっせ」
 サスケが呟いたそれも、ナルトが返した悪態も、どちらも小さな声だった。

 ……ガキでいい。
 ガキでいいのだ。自分は。
「賢くなるってのが大人になるってことなら、オレは馬鹿のままでいい。ガキでいい」
 かつて自来也に言った言葉だ。ガキの駄々だと言うのならそうなのだろう。身勝手なエゴだということも理解している。
 本当はわかっているのだ。サスケが何を求めて里抜けを決意したのか。その先にある目的も。
 けれどその手段も方法も納得できないから。

「……馬鹿は死ななきゃ直らねえ、か」

 ぽつりと、サスケが呟く。
 瞬間――彼の口端が、微かに上がった気がして目を瞠った。

(え?)

 笑っ……た?

「サスケ、」
「……タイムリミットだな」
「へ」
 なに、と問い返そうとして、彼の瞳が紅く染まっていることに気付いた。

(写輪眼)

 うちはの血継限界。彼が囚われ続けている一族の証。

 サスケ、ともう一度声をかけようとしてできなかった。
 目の前が暗くなる、喉が潰されたみたいに声が出ない、身体が重い。

 夢が――終わる。

 終わってしまう。

 唐突過ぎる。自分はまだ、サスケに。

 

(ちょ、待てって……!)







「……ッ、サスケェッ!!」

 自分の叫び声で目が覚めた。
 大きく見開いた目に映るのは、見慣れた天井。
 まだ傾きの大きい太陽の光が、窓から燦々と差し込んできて朝であることを告げている。

「あ~……」

 なんつー夢だ。
 なんだかなあ、と布団の中でごろりと転がって、枕に顔を埋めた。
 しばらくそのまま、見た夢の内容を反芻する。

「……」

 サクラに話したら、馬鹿みたいと呆れるだろうか。それとも困ったような顔で笑うだろうか。
 言葉は突き放したように冷たかったけれど、彼の指先があたたかかったことが何故か嬉しかった。

「クソサスケー」
 アホサスケバカサスケーと呪文のように三度言って、ニシシと笑うと、ナルトは大きく伸びをする。




 ――今日もまた、サスケのいない木の葉の1日が始まる。



------------

最後まで書いたものを一度消してしまってすんごい落ち込みました…。もうすでに意地でこれを書いている。ちくしょおおおお…!最初に書いたほうが自分的に納得いく文章だったとか、もう思い返したくないけど思い出すと悔しい。もっと長かったのに。もうちょっと会話あったのに。あああ。今は時間がないからこれで…。あとで絶対書き足すと思います。しゃーんなろー…(ガクリ)
あ、タイトルも、決めて打ってたんですけど何にしたか忘れてしまったのでとりあえず無題で…;

そんなわけで本当に夢オチでしたスミマセン(笑)

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